村の真ん中で暴れるわけにはいかないので、オレはレドリック達をレーベの外れまで連れて行った。そう大きな村ではないので、すぐに外れまで出てくることが出来る。
 取り巻きを連れたレドリック達は、全員フェンを睨みつけていた。

「この辺りにするか」
「ふん。まあいいだろう」

 フェンの声にブルディードが頷き、三人とフェンは対峙した。三人の後ろには彼らの取巻きが、フェンの後ろにはオレが立っている。下がっているように言われたオレは、彼らから少し離れたところに立った。

「面倒だ。全員でかかって来いよ。取り巻きの連中が一緒でもかまわねぇぜ」
「何を貴様っ!」
 挑発にのせられたレドリックが剣を抜いて走る。
 …って、その剣は真剣じゃないか!

 金と身分にあかせて質の良い剣を買ったのだろう。美しい細身の剣が、フェンの方に向けられた。刃が潰されていない、魔物を倒す為の鋭い刃を持つ剣だ。
 流石に飾り太刀を持ってくるほど馬鹿では無かったらしい。

 だが、それを人間に向けるなんてことは論外だ。
 しかもレドリックは剣を人に向けているのに何の躊躇もしていない。改めてオレはレドリックに強い嫌悪を感じた。

「危ねぇなあ」
 真剣を向けられたというのにフェンはそれだけを暢気に言うと、左手を前に突き出した。
 レドリックが振り下ろした鋭い刃を横に動いて簡単にかわすと、無造作に突き出したように見えた左手でレドリックの腕をはたいた。
 衝撃でレドリックが剣を取り落とす。
 腕に当たったフェンの軽い打撃と、それで剣を落としてしまったという事実にうろたえたレドリックの襟首をフェンは掴んだ。
 フェンが後ろ向きに引っぱると、レドリックは簡単に地面に尻餅ついた。やはり彼らの実力差は明らかだ。

 慌てて起き上がるレドリックの顔面に、フェンは拳を突き出す。
 レドリックの目の前で止められた突きは、鋭く揺ぎ無い。
 目前に拳を突き出されるというのは、実はかなり怖い。腕のいい武闘家のそれなら尚更だ。フェンの手は触れていないけれど、レドリックは殴られたようなショックを受けたに違いない。
 腰を抜かしたレドリックを見下ろして、フェンは不敵に笑った。

「だらしないな」
 横で見ていた魔法使いブルディードがへたりこんだレドリックを嘲笑った。
 取り巻きに抱えられて後ろに下がるレドリックと入れ替わるように、彼は一歩前に踏み出した。

「剣のように野蛮で下等なものに頼るからそうなるのだ。僕が真の力というものを見せてやろう」

 そして彼はフェンと向き合い、呪文を唱え始めた。
 呪文から何の魔法かは察することは出来る。しかも彼が唱え始めたのは、オレにも適合がある魔法だ。オレは魔力が足りなくてうまく発動させることが出来ないけれど、どんな効果の魔法かは知っている。
 ごてごてと飾りのついた魔法使いの杖を振りかぶり、ブルディードは呪文を唱えた。閃光系の初級魔法、

「ギラ!」

 力ある言葉が理力魔法の契約に従って帯状に広がる炎の壁となり、佇む武闘家に襲い掛かる。
 スライムくらいなら数匹まとめて黒焦げにするような魔法を力試しが目的で人間に放つ彼が信じられない。
 
 呪文の発音はきちんとしていたし、魔力も低くは無いと思う。けれど実戦経験はないのだろう。ブルディードの魔法のコントロールはかなり甘い。
 フェンはひょいとかがんでギラを避けると、一気に魔法使いとの間をつめた。逃げようとする足を払うと後ろ向きにブルディードはひっくり返る。レドリックよりも動きが鈍いブルディードは、尻餅もつけずに後頭部を地面に打ち付けた。

 頭を打った衝撃で一度は目を閉じたブルディードが再び目を開くのを待って、フェンはその顔面にかかとを振り下ろした。もちろん、顔面の直前で止める。
 ブルディードはそれで完全に戦意を失ったようで、フェンの足が視界から消えても呆然としていた。

 最後はマリアベルだ。細身の槍を掲げた彼女は、いつもオレを睨むようにフェンを睨み続けていた。
 今のレドリックやブルディードの姿を見ても戦意を失わないのは、ある意味すごいと思う。

 彼女は鞘がついたままの槍の穂先を下にして持ち、棍のように柄を上に構えている。立ち方や武器の持ち方は、武術書の手本通りだ。
 だが、彼女の綺麗過ぎる型は、貴族や高位の僧侶達が学ぶ見た目の綺麗さだけを追求した武術流派のものだ。フェンにそれでかなうはずも無い。

「お嬢さんもやるのか?」
 オレと同じ感想を持ったらしいフェンがマリアベルに声をかけたけれど、彼女は更に目を吊り上げてフェンを睨んで、

「行きます!」

 宣言して一直線に駆け出す。予想よりも速い。
 が、レドリックとそう変わらない速さでは、フェンが反応できないわけは無い。
 フェンは避けもせず、胴体を狙って払われた槍をぱしりと手のひらで受け止める。彼が槍を握ってしまえば、非力なマリアベルがどんなに力を入れても、槍は全く動かなくなった。
 彼女は腕力の差に更に顔をしかめる。

「あんたじゃ、俺に勝てないぜ…って、おおっと」
 言いかけた勧告は途中で止まった。武器から手を離したマリアベルが拳で殴りかかってきたからだ。

「やるじゃないか」

 フェンが楽しそうに笑った。確かにお嬢様にしては予想外の行動だ。
 けれど彼女の突きが武闘家に通じるはずもなく、せっかく突き出した拳も簡単に受け止められる。
 フェンが槍から手を離す。細身の槍が地面に落ちるより速く、彼の突きがマリアベルの眼前に届いていた。

 彼女の眼前で寸止めした拳をフェンが下ろした時、マリアベルもレドリックと同じようにへたり込んだ。
 マリアベル付きの乳母が悲鳴をあげて彼女に駆け寄る。フェンに対して何かを喚こうとした乳母は、彼の視線に気づいて黙り込んだ。
 武闘家としてまともに構えるフェンに対するのは、彼女のような一般人でも怖いだろう。
 その様子に僅かに肩をすくめてから、フェンは周囲を見渡した。そして彼は口を開く。

「魔物が最も弱い国アリアハンならともかく、大陸に出て行くには辛い実力だな。お前ら三人とも、このままロマリアに行けばあっという間に棺桶行きだぜ」

 へたり込んだまま従者に支えられた三人は黙ってフェンの話を聞いている。
 天と地ほどの実力差に、彼らは反発する気力も無いのだろう。フェンの鋭い覇気に気圧されたのか、戦う前は煩かった従者達も静かになっている。

「魔王退治の旅に、お前達みたいな弱い者達について来られても迷惑だ。カイリの足手まといになりたくないなら、帰ってくれ。…どうしても、勇者を直接支援したいと言うのなら」
 フェンは再び肩をすくめた。
 怯えた目でオレ達を窺うレドリック、俯いたブルディード、乳母に抱きつかれているマリアベル。彼らの返事は無いけれど、この先オレの旅についていける実力が無いことは、理解してくれたのだろうか。

「死ぬ覚悟で来ることだな。あんた達でも…そうだな。頭を下げて頼むっていうのなら、旅のやり方くらいは教えてやってもいいぜ」
「……」

 彼らに死ぬ覚悟はないだろう。オレには魔王退治の旅に出ろといいながら、彼らに自分の命を賭ける度胸は無いのだ。
 そして無駄に高いプライドに凝り固まった彼らは、敗北してもなお、フェンに頭を下げる気にはならないだろう。

「宿屋にキメラの翼を置いておきます。この先の危険な旅に、死を覚悟でついて来てくれるのなら、オレはあなた方と共に行こうと思っています。けれど、正直オレはあなた方を危険な目には合わせたくありません。だから旅が無理だと思うのなら、キメラの翼でアリアハンに戻ってください。元宮廷魔術師のダルファ様には事情を話しておきます。旅を中断してもあなた方が不利益を被ることはないように、出来るだけ努力させていただきますので」
 ダルファ先生の説得なら王も聞いてくれるはずだ。ルイーダも根回ししてくれたようだし。

 言いたい事を言ったオレは彼らを置いて歩き出した。その後ろをゆっくりとフェンが着いて来る。
 彼らに背を向けたオレは口元がにやけるのを止められなかった。これでやっとレドリック達と離れられるかと思うと、嬉しくてたまらない。

「言うなあ、カイリ」
 感心した口調で声をかけてくれたフェンに向かって、オレは晴れ晴れとした顔で笑った。
「フェンこそ、オレの言えないことを言ってくれてありがとう。それから、ごめん」
 言いながら小さく頭を下げる。

 一応アリアハン国民であるオレが、積極的に王命や貴族に逆らうと角が立つ。旅をするオレはよくてもオレの家族や知人が権力者達に嫌がらせなどをされるかもしれない。
 それに勇者というのは権力者に嫌われることもある。
 遠いサマンオサ王国では数年前に勇者が突然投獄されたこともあるのだ。
 オレだって、いつ誰かにろくでもない噂や疑惑をかけられるかわかったものじゃない。

 いつか誰かによって、この事でオレに国への叛意疑惑がかけられた時、オレを庇えるようにフェンは考えてくれたのだろう。叛意を疑われた時に、レドリック達を追い出したのは自分だと言い、責任はオレでなくて自分だと彼は主張するつもりでいるのだ。彼は出合ったばかりのオレを既に庇おうとしてくれている。

「謝られる理由はないな。好きなことを言っただけだから」
 フェンは、にやりと笑って目の前の宿屋を指し示した。
 オレが荷物をとりに行く間に、彼は宿屋の主に事情を話してキメラの翼を預けてくれていた。二人で主人にお礼を言い、宿屋を出る。

「じゃあダルファ様に会いに行くか」
 明るい声でフェンが言った。
 魔法の玉の準備に三日かかるなんて、もちろん嘘だ。魔法の玉はもうとっくに出来ている。

 それから先生のところに行って、結果と御礼を先生に言った。
 フェンに会えたのも、彼らと別れられたのも先生のアドバイスのおかげだ。
 オレ達を出迎えてくれた先生とレナは、作戦の成功とフェンが仲間になってくれたことを喜んでくれた。
 引き止められてフェンとオレはその晩は、先生の家に泊めてもらった。明日は「旅の扉」のある「誘いの洞窟」に向かう予定だ。




 翌日もいい天気だった。オレ達の旅立ちを祝福するような、雲ひとつ無い晴天。
 風は緩やかで太陽の光は暖かく、朝の少し冷たい空気が気分を引き締める。
 そんな旅立ち日和の朝だ。
 この時期、アリアハンは晴れの日が続くことが多い。誘いの洞窟を通りアリアハンを出るまで、この天気が続くことをオレは神様に祈った。

 フェンの経験を聞きながら、朝から店を開いているレーベの雑貨屋で日用品を少し買い足す。逆に不必要と思われるものはダルファ先生に預けてきた。
 先生とレナに改めてお礼を言ってから、オレ達は先生の家を出た。先生もレナも村の出口まで見送ってくれると言ったけど、オレはそれを断った。
 村の出口まで見送ってもらったら、なんだか泣き出しそうな気がしたからだ。湿っぽい別れ方はしたくない。今生の別れというわけでもないし。

 念の為、レーベの宿屋に寄ったら、三人ともが昨日のうちに宿を引き払っていた。
 宿の主人が教えてくれたところによると、フェンと立ち会った後に宿屋に戻ってきた彼らは、全員がキメラの翼を受け取り、すぐに荷物をまとめてアリアハンに帰って行ったらしい。
 オレは宿の主人にあらためてお礼を言った。

「じゃあ、行こうか」
 宿を出て、言いながらもオレは村の中を振り返る。
 これからオレ達はレーベの村を出て、誘いの洞窟に向かい、その中にある旅の扉を使ってロマリアに向かう。
 レーベを出たら誘いの洞窟までは野宿になるから、レーベはオレがアリアハン王国内で最後に見る集落になる。この場所を訪れるのがこれで最後だとは思っていないし、また来ることもあるだろうけど、それでも寂しい気分になった。
 アリアハンで生まれ育ったオレが他国に旅立つ前の、最後に見た故郷の風景を覚えておこう。そう思って、オレはレーベを記憶に焼き付けるように眺めた。

「一度、母親に挨拶していかなくてもいいのか?」
「大丈夫」
 そんなに顔に出ていただろうか。
 少し心配げにかけられた声にオレは首を振った。
 フェンに微笑んで見せてから、大またで村の出口の方へ歩き出す。背後でフェンが肩をすくめた気配がした。
 
 少し歩くと、余り大きくも無いレーベの村の出口がすぐに見えた。
 オレの足が止まる。オレの隣を歩いていたフェンも気づいたのか、足を止めた。
 村の出口の目印である木製の門の柱にもたれかかる人物をオレもフェンも知っている。

「マリアベル?!」
 思わずオレは彼女の名前を呼んでいた。
 村の出口に座り込んでいたのは昨日のうちに帰ったはずの僧侶マリアベルだった。
 彼女は乳母も連れずに一人きり、昨日と似たような旅装で柱にもたれて座り込んでいた。

 オレの声で彼女はオレ達のことに気がついたようだ。マリアベルは立ち上がったけれど、そこから動かない。
 仕方ないのでオレ達は少し駆け足で彼女に近寄った。
 何故彼女がここにいるのかがわからないオレは、ついじろじろと彼女を見てしまう。視線に気づいたマリアベルが顔を少ししかめたので、オレは視線を誤魔化す為に愛想笑いをした。
 とりあえず彼女に話しかけてみることにする。

「アリアハンに帰ったのではなかったのですか?」
「帰りました。一度は」

 見た限り、昨日フェンに完敗したにも関らず、マリアベルの雰囲気は全く変わっていなかった。彼女は真っ直ぐオレを見上げてくる。
 レーベにくるまでの間中、オレに突き刺さっていた視線はこんな感じだったのだろう。真正面からマリアベルはオレを睨んでいた。
 もしかしたら睨んでいるつもりは無いのかもしれないけど、視線が鋭すぎて睨みつけてきているようにしか見えない。顔は無表情なのに、視線だけが鋭いから本人は感情を抑えているつもりなのかもしれないけど。だとしたらそれはまるで成功していなかった。

「頼みたいことが、あるのです」
「何でしょうか?」
 相変わらずの鋭い視線に呆れながら、オレは言葉の続きを促した。
 数秒の間、彼女はじっとオレを睨み上げていたけれど続きを言う気配が無い。もう一度聞き返したほうがいいかとオレが考え始めた時に、ようやくマリアベルは口を開いた。

「勇者カイリ…様」
 ぎこちないけど「様」付けされて名前を呼ばれた。呼ばれ慣れてないので、驚いたオレは少し目を見開く。
 マリアベルはオレの目から視線を外さないで言う。

「私を魔王征伐の旅に同行させてください」
「へ?」

 今度こそ驚愕したオレは、思わず間抜けな声を上げていた。
 昨日の立会いで、あれだけ実力差があることを思い知ったというのに、まだ彼女はついてくる気だというのか?

「もちろん私が旅の素人であることはわかっています。本当に足手まといだと感じた時は、捨てていかれても文句は言いません。ですが、私もずっと足手まといになることはないように努力します」

 言いながら急き立てる何かを感じているのだろうか。俺を睨み上げたまま、マリアベルの言葉が徐々に早口になる。
 興奮しているのか彼女の頬が少し赤らんでいる。一度言葉を切ったマリアベルは、覚悟を決めるようにひとつ大きく息を吸うと、オレとフェンの方に向けて勢いよく頭を下げた。
 信じられない出来事に、オレは硬直する。

 プライドの高そうな彼女が誰かに頭を下げるなんて、全く想像つかなかった。
 昨日まで従者に付き添われていたお嬢様の彼女が、オレみたいな一般人に頭を下げるなんて、誰が予測できただろう。

「私に旅のやり方を教えてください。お願いします」

 頭を下げたまま彼女は言った。
 うろたえたオレはとりあえず彼女に頭を上げるように言ってから、フェンのいる方を振り返った。
 彼もオレと同じような困惑した表情でオレを見ていた。
 ちらりとマリアベルを窺うと、身を起こした彼女は視線だけが鋭い無表情に戻ってオレとフェンの様子を見ている。

「どうしようか…」
 そう言ってはみたけど、フェンも決めかねているようだ。
 困ったオレは判断材料を増やそうと、もう一度マリアベルの方を向く。

「旅の経験はないですよね?」
「アリアハンの外に出たのは、今回が初めてです」
「でしょうね…」
 レーベまでの旅で少なくとも彼女が長距離を歩いた経験が無いことと、魔物と戦った経験がないことはわかっている。

「そういえば、従者の方々は?」
「アリアハンに置いてきました。荷物も…」
 言いながら地面に下ろしている小さめの背負い袋を彼女は指し示した。
「実用向きとはいえなかったので、アリアハンに戻った際に旅に詳しい方にお願いして詰め直していただきました。少なくとも最低必要なものは入っていると思います。靴も換えました」
 見下ろしてみると確かにマリアベルの履く靴が、華奢な靴から女性冒険者が履くようなブーツに変わっていた。服装も前より肌触りは悪いだろうけど、汚れにくくて丈夫そうなものに変わっている気がする。
 一晩のうちによくこれだけ揃えたものだと、オレは驚いた。

 旅慣れてないマリアベルがたとえ本人の言葉どおりに努力したとしても、彼女がオレ達の足手まといになることは間違いない。
 だけどふと思い出したのは、ナジミの塔で受けた毒のことだ。
 毒消し草も持ち歩ける数には限りがある。キアリーが使える彼女がいれば、あの時のような危機に陥る確率は減るだろう。

 昨日の夜、長い旅をするなら僧侶を仲間にしようとフェンに言われていた。
 オレはホイミを唱えられるけど、フェンは魔法を使えない。それにオレの魔力はあまり高いとは言えないから、そんなに回数が唱えられない。
 長い旅の間、どこへ行くともしれないのにホイミだけでは辛い戦いになるかもしれないし、二人旅というのも心許ない。癒しをもたらす僧侶が仲間にいれば、オレは剣に集中できるうえに、怪我や毒を癒してもらえる。
 だからロマリアについたら、仲間になってくれる僧侶を探そうとは言っていたけれど…。

「辛い旅ですよ? ほとんど徒歩で移動しますし、これから一週間以上野宿が続きます。魔物とも毎日戦うことになりますし、アリアハンにだっていつ帰れるかどうかもわかりません」
 脅すような口調で言ってみたけど、マリアベルの表情は全く変わらなかった。少なくとも彼女なりに覚悟をしているらしい。
 相変わらずの鋭い瞳で、真っ直ぐにオレとフェンを見上げている。

「何日か歩くと、平原よりも何倍も魔物が出てくる洞窟に入る。昨日も言ったとおり、あんたは弱い。下手をすれば、ロマリアを見ることなくあんたは死ぬことになるかもしれないぜ?」
 フェンもオレに同調した。
 旅の素人の彼女が諦めて帰ってくれるのが、オレ達にとっても彼女にとっても一番楽で安心できる結果だ。
 だがマリアベルは、死という言葉には少し動揺したようだったけれど、すぐにもとの顔に戻った。彼女は少なくとも、自分からは全く引く気が無いらしい。

「覚悟しています」

 ただそれだけを真剣に言った。
 相変わらずオレ達から視線は全くそらさない。
 完全に本気なのだとしか思えなかった。

「どうする?」
「どうするって…」
 フェンにオレは苦笑してみせる。
 だいたいわかりきっていることを聞かないで欲しい。
 オレの表情を見れば、考えていることなどだいたいわかるだろうに。

「そりゃあ、言っちゃったしね…」
「俺がな」
「オレも同意見だったんだよ。否定して無いしさ。まあ、最初の予定では三人ともロマリアまで連れて行くつもりだったから」
 オレは思い出す。アリアハンを出たときは、オレはそうするつもりだった。
 ナジミの塔で死に掛けるオレに、足手まとい三人を担いで洞窟を渡れるはずが無い。今考えれば、無謀なことを考えていたものだ。

「フェン。フォロー頼んでいい?」
「一人くらいなら」
 連れの了承を貰って、オレは改めてマリアベルに向き直った。

「これからよろしく、マリアベル」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 オレが差し出した手をぎこちなく彼女は握り返した。
 続いてフェンとも、オレよりさらにぎこちなく握手する。
 その様子を見ながらオレは考えた。

 マリアベルは、思っていたよりずっと真面目なのかもしれない。
 少なくとも今オレ達に向き合っている彼女は、真剣に旅を望んでいるように見えた。











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