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シャンパーニの塔はロマリア城の北西にある。 直接行くには険しい山脈と海が邪魔しているので、一度北上してカザーブ村に行き、そこから南西に進むことにした。 ロマリアからカザーブ村までには街道がのびているから歩きやすいし、途中で消耗品の補給が出来るのも利点だ。 そういうわけでロマリア城下町から出てみたオレ達だけど、一時間も歩かないうちに魔物が現れた。 キャタピラーという芋虫型の魔物が二匹。 表皮が堅くて体力のあるロマリア辺りによく出没する魔物だ。一応オレでも倒せるけど、一撃では滅多に倒せない。それどころか体当たりされて吹き飛ばされ、怪我をすることもよくあった。 一匹はいつものようにフェンが瞬く間に切り捨てる。 二匹出てきた時はオレがしばらく相手して、怪我をしたらマリーがホイミを唱えて、フェンがフォローしてくれるというのが今までキャタピラーが二匹出てきたときの対処だったけど、今回は違った。 「じゃ、あたしも前にでまーす」 オレよりもキャタピラーに近い場所に立っていたルチカが、装備していた鋼の鞭を引き抜いた。 ハートマークがついてそうな甘い声で言ったのに、武器を構える彼女には全く隙が無い。フェン並みの速度でキャタピラーに近寄った彼女は、高速で鞭を振り回す。 鞭がしなる鋭い音が響いたと思ったら、キャタピラーは体半ばまでばっくりと切り裂かれていた。 腕力がそれほどあるようには見えないけど、移動のスピードを鞭にのせたことによってあれだけの威力が出たのだろう。 想像以上に強いルチカにオレもマリーも、思わず彼女を凝視してしまう。 「やるねー」 「まぁね」 唯一フェンだけが驚いた様子を見せなかった。彼はルチカの強さに気がついていたのだろうか。 なんとなく悔しい気がして、オレは結局使わなかった剣を強く握り直した。 少しもやもやしたものは感じたけど、ルチカと一緒に歩いていれば、すぐにオレの機嫌は直った。 我ながらオレは現金だと思う。 カザーブ村までは普通に歩いて数日かかる。 道はあるけれどそれほど整備されているわけじゃないし、魔物が頻出する世の中だから途中に宿はない。だから着くまでは野宿が続いた。 食事は保存食である堅いパンをかじることもあるけど、夜は鍋を使ってスープのようなものも作ってみる。 作るのは専らフェンでオレも手伝う。お嬢様育ちで料理などしたことのないマリーも、何回か練習すればましな手つきになってきた。 今のところ正式な仲間ではないルチカは、黙って薪をくべたりなどの手伝いはするけど、料理の方は手を出さない。 一日、ルチカと一緒に歩いてみて気がついたのは、彼女はオレ達に怪しいと思われそうなことは一切しないということだった。 変にオレ達のそばを離れたりしないし、料理のそばにも必要以上に近寄らない、野宿の見張り番の順番にも口を出さない、戦闘時は積極的に前に出る。 「頭がいいのかなあ…」 マリーに話しかけているルチカを見ながらオレは呟いた。 要領がいいというか、周りを良く見ているというか。 たった一日でオレの性格は大分彼女に読まれたと思う。 それはマリーも同じようで、あの無表情ですぐ人を睨む無愛想僧侶が、ルチカのペースに巻き込まれて時々笑顔になっていた。 「うーん、やっぱり女の子は笑っているほうがいいよなぁ」 「何を真顔でオッサンくさいこと言ってんだ」 今度の呟きはフェンに聞きとがめられた。 照れたオレは頭を掻いて、何かを誤魔化す。 「だって、ルチカと一緒に歩くようになって、なんか全体的に雰囲気が明るくなったなあって思うんだよ。マリーに限らずさ」 美少女と一緒に歩くことに浮かれるオレに、笑顔が増えてきたマリー。フェンもオレとマリーの両方をフォローする必要がルチカの加入でなくなったおかげか軽口が増えてきた。 「まあ…そうかもな」 「そうだよね。やっぱ、そうだよね〜」 オレの視線の先で、ルチカとマリーが笑っている。 楽しそうに何かを話しているルチカの様子があまりにも可愛くて目が離せない。なんだか不思議な気分は、カザーブ村に着くまで続くことになる。 それから数日後、山岳の村カザーブにオレ達は辿り着いた。 村に着いたのは夕方だったので、ロマリアに続いてオレはフェンと同じ部屋で休み、数日の間にすっかりルチカと仲良くなったマリーがそれでいいと言ったので、彼女とルチカが同部屋で休んだ。 翌日の朝。ルチカはかなりご機嫌だった。 何故かずっと「マリーは可愛い〜」と幸せそうに呟いている。マリーの方は昨日と別に変わらない無表情だったけど、昨夜何かあったに違いない。 昨夜何の話をしたのだろうか。 女の子同士の会話というのがオレはどうにも気になったけど、きっと男のオレはまぜてくれないだろう。仕方なくフェンにもたれかかっていたら「暑い」と言われて逃げられた。ちょっと寂しい。 朝食を食べた後は買出しだ。この村を越えれば塔まで宿屋や武器屋があるような大きな村は無く、食料等の消耗品はこの村で補給する必要があった。 適当な消耗品をほどほどに買った後に、オレ達は再び宿屋の一階にある食堂兼酒場に戻る。食堂で頼んだ料理を部屋に持ち込み、そこで遅めの昼食を食べつつ、この後の予定を決めることとなった。 「そういや、ちゃんとした自己紹介はまだしてないよね」 そう切り出したのはオレだ。 ロマリアでもざっと話したし、カザーブに来る前にだいたいお互いの能力はわかっただろうけど、四人揃ってのきちんとした自己紹介は実はまだしたことがない。 この自己紹介にはルチカのことをもう少し知りたいというオレの願望も少しは入っているけれど、シャンパーニの塔に向かう前に、戦力や目的を含めたお互いのことを知っておくのは重要なことのはずだ。…多分。 「そうねー。あたしも知りたいわ。前はちゃんと教えてくれなかったし」 「ははははは…」 意味ありげに言われて、オレは汗をかきながらルチカから目をそらせた。 前というのは、初めて会った日の酒場でのことだろう。あの時、オレは勇者なのにカツアゲされていたという事実を隠す為に、自分のことは曖昧にしか話さなかった。 「ええと、フェンとマリーもいい?」 「そうだな。俺は別にかまわねえよ」 「私も」 フェンとマリーも自分のことを話すのを嫌そうにはしていない。 それどころかオレとオレを少しからかうように見て笑うルチカを面白そうに窺っている。オレの頬をまた一筋汗が落ちた。 「…じゃあ、言い出したオレから自己紹介しようか。知ってると思うけど、オレの名前はカイリ・マディリアス。親父のあとをついで、魔王退治の命を受けた、一応勇者だ」 オレは自分の頭に光るサークレットを指で指し示した。 この飾りは、アリアハン王国が認めた勇者の証だ。環の壁面にはアリアハンの紋章と王の名、そしてオレの名前が彫られていて、これがこれから先のオレの身分保障をする。 「カイリはオルテガ様の息子なのよね?」 「ああ。ぶっちゃけて言うと、このサークレットを旅立ちの時に渡されたのは、俺が勇者オルテガの息子だからだと思う」 苦笑して、オレは肩をすくめた。 逆に言えば、オレが親父の息子でなければ追い出されるように旅立つ必要は無かったのだろうけど、今更そんなことを言っても仕方ない。 「今の目的はカンダタからロマリア王の金の冠を取りかえすこと。…金の冠って知ってる?」 さぐりをいれるのも兼ねてオレはルチカに聞いてみた。 何の気負いも無くルチカは頷く。 「うん。知ってるわよ。換金し辛いものだから、まだ塔にあると思う」 「何でそんなものを盗んだんだよ」 「何でかしらねー?」 フェンのツッコミに、ルチカは肩をすくめた。 「親分の考えを全部知ってるわけじゃないから、あたしにはそこまではわからないわ。一応確認しときたいんだけどさ。カイリ達の目的は金の冠を取り返すことであって、盗賊団の殲滅とかカンダタの捕縛とか、そういうことじゃないのよね?」 「出来ると思ってないよ」 オレは再び苦笑した。 カザーブまでの旅路で、ルチカはかなり腕のいい盗賊だというのはわかっていた。認めたくないけど彼女は多分武器戦闘だけならオレよりも強いのではないだろうか。 そんな彼女が慕っているカンダタはおそらく彼女よりも強いだろう。 そしてカンダタとルチカだけが強いとは思えない。きっと他にも強い奴はいる。そんな盗賊団をオレ達だけでどうにかしようとするのは現実的じゃない。 「ロマリアで噂を聞いた限り、カンダタ盗賊団は評判の悪い金持ちしか狙わない義賊だって話だし…、あまり積極的に戦いたいとは思ってないな」 「評判の悪い金持ち…」 マリーがぼそりと呟いた。 そう。つまりロマリア王宮は評判の悪い金持ちだということだ。否定する材料は全く無いので、誰もオレの言葉に異議を唱えなかった。 「戦力の話をすると、剣も魔法もそこそこ使えるけど、どっちかというと剣の方が得意かな。使える魔法は今のところ、僧侶系はホイミとニフラム、魔法使い系はメラとルーラ、盗賊魔法のレミーラ、以上」 「ホイミとメラって…。カイリって天地属性なの!?」 「あれ、言ってなかったけ」 驚いた様子のルチカに、オレは首をかしげた。そういえばアリアハンを出てからホイミはマリーにまかせっきりになっていることもあって、最近全然魔法を使ってない。 仲間達を見てみると、アリアハン出身で元からオレのことを知っているマリーは無表情を崩していない。だけど、フェンは不思議そうにオレ達を見ていた。 「前から思ってたんだが、天地属性者って何なんだ?」 「えーっと、ちょっとした特殊体質なんだけど。魔力の持ち方がちょっと変わってる人間のことなんだ」 勇者という単語は知られていても、天地属性者という単語は世間で余り知られていない。武闘家で魔法と関係ないフェンが知らないのは普通だ。 世界中探しても滅多にいない珍しい体質だから、オレも確実に生存していることがわかっている天地属性者はオレ自身しか知らない。 ついでだから、説明してしまおう。 オレはマリーを手のひらで指し示した。 「聖力属性者は知ってるよね」 「そりゃ、まあな」 フェンが頷いた。 人は誰でも魔力を持つ。だけどほとんどの人間は、それを聖力か理力のどちらかにしか変換できない。魔力を聖力に変換する才能を持つ人間のことを聖力属性者という。 聖力はホイミやニフラムといった僧侶魔法を使うのに必要な力だ。つまり、ごく一部の例外を除いて僧侶魔法は聖力属性者でないと使えない。 僧侶のマリーは聖力属性者だ。 「ルチカは理力属性者?」 「そうよ」 聞けばルチカは頷いた。 マリーとは逆に、魔力を理力に変換する才能を持つ人間のことを理力属性者という。魔法使いの使うメラやギラといった理力魔法や、ルチカの使う盗賊魔法は理力属性者でないと使えない。 「魔力を聖力と理力、どちらにも変換できる才能を持つのが天地属性者なんだ」 オレは自分を指し示した。 「つまり、カイリはメラもホイミもレミーラも使える才能があるってことか」 「適合があればね」 フェンは尊敬するようにオレを見てくれたけど、オレは苦く笑った。 「適合?」 「何でかはオレも知らないんだけどさ。天地属性者は普通に魔法を覚えられないんだ。相性のいい魔法…適合っていうんだけど、それがある魔法しか覚えられないんだよね」 いまいちぴんとこないらしい。フェンが首をかしげた。 適合については、天地属性の定義よりも更に一般人には知られていない。 ルチカやマリーも知らないのだろう。二人とも興味深そうにオレを見るので、なんとなくオレは照れた。 「普通、魔法は魔法を使える職業になってから、個別の魔法と契約して使えるようになるだろ?」 僧侶魔法も、理力魔法も、盗賊魔法も、それから商人の特技も。まずその職業になって、それぞれの魔法と契約しなければならない。 契約してから勉強したり、精神統一したりしてそれぞれの魔法を使えるようになっていくのだ。 一度使えるようになれば転職しても魔法は使えるままだから、理論的には魔法を使える戦士なんてものもできたりする。 「魔法には難易度があって、たとえば回復魔法なら、ホイミを覚えて、べホイミを覚えて、ベホマを覚えて…という風に覚えていくだろ。普通いきなりべホイミを覚えたりしないよね」 「そうですね。そういうことも可能かもしれませんが、意味がありません」 いきなりべホイミを覚える僧侶というものがいるなら、それは使えるのに勉強していないということだ。理論的にはべホイミを使える僧侶は必ずホイミを使う才能がある。 「天地属性は、魔法の契約をしなくても魔法を使うことが出来る。オレはホイミを使えるけど、契約はしてないんだ」 「便利だな」 「うん。だけど、向いてない魔法はどれだけ修行しても使えないんだ。転職しても、魔法を契約しても絶対に使えない」 たとえば、とオレは呟く。 「オレはべホイミを使う才能…適合っていうんだけど、とにかく今は使えないけど頑張って修行すれば、将来べホイミを覚えることが出来る。だけど、どれだけ頑張ってもキアリーは使えない。適合がないからね」 「そうなの?」 ルチカは驚いたようだった。天地属性は天然の賢者だと言う人もいるけど、実は全くそんなことは無い。 「うん。適合は個人によって差があって、おまけに呪文の難易度や系統も関係ない。オレはバギ系は全く適合がないけど、オレの親父は上級魔法のバギクロスは使えるのに、初級のバギが使えないっていう体質だったらしい」 先生から話を聞いたとき、なんか不便な覚え方だと思ったのをオレは覚えている。 というか、使える攻撃魔法がバギクロスとライデインだけってのはどうなんだよ、親父。 オレもイオラの適合はあるのに、イオの適合はないので人のことは言えないけど。 「へえ〜。でもあなたは本当の勇者様なのねっ! すごーい!」 天地属性者が噂ほど万能で無いことを聞いても、ルチカはオレをきらきら光る瞳で見た。 彼女ほどの美少女に憧れの視線で見られたら悪い気がするわけない。オレの鼻の下が伸びたのは、自然の摂理という奴だ。 「そうかな?」 「えー、だって本物の勇者の才能を持ってるんじゃない。凄いわよ!」 「でも、ちんぴらにカツアゲされかけたんだよな」 照れているとフェンの横槍が入った。 そういえばそうだった。しかも助けてくれたのは目の前でオレを褒めてくれるルチカで、それが彼女とオレのファーストコンタクトだ。 「そういえばそうだね…」 「だ、大丈夫よ。ちゃんとあなたが強いことはわかってるから!」 一気に落ち込んだオレを励ますようにルチカが明るい声を出した。 彼女は目の前で流れを断ち切るように小さく手のひらを叩くと、不自然なくらいの笑顔でオレ達を見回す。 「次は、あたしが自己紹介していい?」 頷くと今度は自然に彼女は微笑んだ。ルチカは両手を自身のひざの上において、背筋をきちんと伸ばす。 彼女が普段着ている装備は盗賊の典型的なものだけれど、装備を解いて背筋をのばして椅子に座る様子はどこかの令嬢のようにも見えた。 そのギャップも新鮮でいい。 「あたしの名前はルチカ。カンダタ盗賊団に所属する盗賊よ。これでも結構腕利きのほう」 そこで彼女は何故かマリーに向けてウインクした。 まさか、そっちの気があるのだろうか…、とオレは少し心配になった。 「盗賊っていっても色々いるけど、あたしは結構冒険向きの技能持ちで、隠し扉を探したり、仕掛けられた罠を設置したり解除したりとかそういうのが得意なの。魔物との戦闘もそれなりにできるつもりよ。得意なのは鞭ね」 ルチカの鞭さばきが素晴らしいことはカザーブまでの間にわかっている。接近戦ではダガーなども使うという話だ。 「使える魔法は盗賊魔法だけ。レミラーマはまだ覚えてないけれど…それ以外は全部使えるわよ」 「レベルが高いなあ…」 オレは苦笑した。 魔法というのは生まれつきの素養が拘わってくるものだから、努力すればそれだけ成長できるとは限らないけど、レミラーマ以外全ての盗賊魔法が使えるということは、ルチカは相当腕利きの盗賊だということだ。 彼女の全体的な技量は今のオレよりもかなり上だという事実に、少しオレは落ち込んだ。 「金の冠を取り返すのを手伝う理由は、カイリのことを気に入ったから。それと勇者様に盗賊団が潰されない為…だったんだけど」 にっこりとルチカは微笑んだ。そして隣に座るマリーに抱きつく。 「今朝、マリーに傷ついて欲しくないっていう理由が追加されましたっ!」 「………」 「………」 「え。なんかオレ、マリーに負けてない?」 オレの為だと言った時より、マリーの為だと言った時の方がテンションが高い気がする。 横目でマリーを見てみると、彼女は無表情だった。けれど、オレの視線に気づいた途端ふっと笑われ、オレはものすごい敗北感を味わう。 「一応、確認しときたいんだが」 しばらく無言だったフェンがルチカを見た。 「ロマリアでも言ったとおり、俺達を裏切らないという約束は絶対に守るんだな?」 「もちろんよ。もし親分があなたたちを捕らえろと命令しても、あたしはあなたたちを逃がす為に最大限の努力をするわ。でも、盗賊団を裏切るわけじゃない。あなたたちを守ることが結果的に親分の為になると思っているからよ」 「ルチカが敵になるとは思ってないよ」 まだ微妙に落ち込みながらオレが言うと、フェンも頷いた。 「じゃ、カイリもそういうことだし信じよう。次は俺でいいか?」 異議が無いことを知ると、フェンは周りを見回した。マリーにみじろかれたルチカがやっと彼女から離れる。残念そうな様子に見えるのが、先程の疑惑を少し濃くした。 フェンが咳払いをして話し出す。 「名前はフェンイン。旅の武闘家だ。魔法は一切使えないが、腕っ節にはまあまあ自信がある。カイリにスカウトされて、なんとなく旅に加わった。以上」 「面白みの無い自己紹介ねー」 「ほっとけ」 ルチカのツッコミを半眼でフェンは流した。 彼女はフェンを見上げて、しばらく考える。 「たとえば特技とか趣味とか無いの?」 「…戦力に関係あるのか?」 「自己紹介の定番じゃない。ちなみにあたしの趣味と特技は料理よ」 料理とはいかにも盗賊めいた外見のルチカからすれば少し意外な趣味だ。だけど女の子としては素晴らしい。是非とも彼女の手料理を一度食べてみたいものだと思う。 「そうか。でも俺は趣味らしい趣味はないんだよなあ…。特技らしい特技もない」 「本気で面白みの無い人間ねえ…」 「うるせえな。次、マリー」 「私ですか?」 しかめ面したフェンは早々にマリーに振ってしまった。 オレとしてはフェンの自己紹介にはかなり興味があったのだけど、フェンはそれ以上に話すつもりは無いようだ。 「私はアリアハンの僧侶、マリアベル・ローズガーデンと申します。マリーと呼んで下さい」 相変わらず無表情でマリーは淡々と自己紹介を始めた。 「体力はありませんし、剣も実戦レベルではありませんが、僧侶魔法を教本どおりの順番で幾つか習得しています。一番最後に覚えた魔法はキアリーですね」 キアリーは体内の毒を消す呪文だ。術をアレンジして酔い覚ましをすることも出来る魔法なので、宮廷僧侶には必須の呪文だったりする。 「旅に加わった理由はアリアハンの王命だからです」 「王命…」 王命というにはレドリックやブルディードと違って根性が座りすぎている気がするけど、マリーは負けず嫌いだ。途中で放り出すのが許せなかったのだろう。 ルチカは少し目を開いてマリーを見た。 「マリーってすごい人なの?」 「父や弟が宮廷付きの僧侶をしています。その関係です」 「もしかしてお嬢様だったり?」 「一応は」 一応も何も、マリーは本気でお嬢様と言っていい生まれの人だと思うけど、ただのお嬢様では無いかもしれない。 オレはロマリア城下町で装備を買い換えた時、フェンがマリー用に聖なるナイフを買ったら彼女が見たことが無いほど大喜びしていたことを思い出した。 普通のお嬢様は、剣を買ってもらって喜んだりしないんじゃないかと思う。 「さすが勇者一行って感じの面子ねえ。フェンはともかく」 「しつこいぞ」 フェンが横目でルチカを睨み、ルチカがにやりと笑ってフェンを見る。 出会ってからそう日が経つわけでもないのに、もう息の合う掛け合いが出来るフェンとルチカはきっと気が合うのだろう。フェンがうらやましいとオレは思った。 [ next ] |