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「ルチカがカンダタの娘…?」 呟いたオレの思考は完全停止。 何故かどっと額から汗が吹き出る。 「えええええええっ?!」 「マジかよ!」 マリーとフェンが悲鳴を上げた。盗賊達はやれやれと首を振る。彼らにとっては予想通りのリアクションなのだろうか。もしかして、前にもこんなことがあったのか?と頭の片隅でオレは考える。 「何故、黙ってた!」 フェンがルチカを問い詰める。 「娘って話したら、人質にされるかもって思ったのよ」 「するか!」 「うん。ごめん。でも念の為にね」 両手を合わせてルチカは謝る。更に何か言おうとするフェンをオレは制した。 「あっ…、カイリ…」 少し気まずげに、フェンはオレを見た。ルチカを睨んでいたはずのマリーさえも、どことなく心配気な顔でオレのほうを見る。 仲間達にオレは笑顔を返した。大丈夫、オレはちゃんと平気だから。 ルチカに向き合いつつ、オレは決意する。 心配はされなくても大丈夫。オレはオレのするべきことをするだけだから。 「どうして先に言ってくれなかったんだ、ルチカ」 静かに微笑んでそう言ってから、だけどこらえきれずにオレは目を伏せた。 悔恨から知らず眉間にしわが寄る。駄目だ。前にルチカに「大人っぽく笑うカイリって素敵」って言われたんだから、爽やかに微笑んでないとイメージダウンなのに! だが、言い訳ぐらい言わせてほしい。ルチカがカンダタ盗賊団の一員だと言っていたのだから、この件は想像できたかもしれない事態なのかもしれないけど、本当にオレは全く予測できなかったのだ。ああ。一生の不覚だとも! 「初めての挨拶なのに、何も持ってこなかったよ、オレ!」 「え?」 何故かぽかんとした顔でオレを見るルチカ。フェン達も子分達も同様だ。 ルチカ達のリアクションから察するに、もしかして盗賊団という一般社会とは異なる業界で生きてるから、カンダタはそのあたりを余り気にしない人物なのだろうか。だとしたら嬉しいけれど、オレの思い出的に今日のことは痛恨の一撃だ。 「どうしよう。服も思い切り普段着だ。将来お義父さんと呼ぶ人に会うのに…」 「おいおいおいおいおい…」 オレの独り言に何故かフェンがツッコミを入れてくる。だが、正直そのツッコミに返事する余裕は無い。オレは今、人生の重要地点に準備無しできてしまっている。 即急に対処しなければ。なんせ、今日の出来事でオレの人生設計が大きく変わってくる。 よし。落ち着けオレ。落ち着いて考えろ。 カンダタが可愛いルチカの父親だということは、もしオレの恋が実った場合、カンダタはオレの義理の父親になるということになる。 第一印象というのはとても大事なものだ。だが、初めて未来の義父に会うというのに、オレは鎧付きの無骨な装備。しかも初めての挨拶なのに土産も持ってきてない。 これでは第一印象は最悪決定だ。なんとかして一度ロマリアか、出来たらアリアハンに帰れないだろうか。せめて手土産だけでも持ってこないと、マナーのなってない挨拶は近所の奥様方の評判が最悪になると母さんが言っていた。 「お前、お嬢さんの何なんだ?」 悩んでいると子分の一人が聞いてきた。 何って…、オレはルチカに恋している普通の男だ。将来的には恋人になって、さらに将来には結婚できたらと思ってるごく普通の男だ。 ああ。そういえば、意識してなかったけど今オレはルチカの実家に来てるんだな。そう考えるとなんかすごく照れる気がする。何か興奮してきた。 「気持ち悪い…」 「まあ。あれよ。なんか見たとおりの人なのよ」 マリーの失礼な呟きはさておき、ルチカの紹介の仕方が気になった。 見たとおり…って、もしかして初めてのルチカのお家訪問で緊張しているのがばれてるのだろうか。それは格好悪いから避けたいのに。 「見たとおり…」 復唱しながら子分達がオレを見た。 品定めされるような視線に、オレは照れる。 「これは…これはまずい!」 盗賊の一人が叫び、他の盗賊達も顔色を変えた。お互いに顔を見合わせ、盗賊達は慌てた様子でお互いに頷きあう。 「これは盗賊団始まって以来の一大事だ!」 「やばい! まずい! 大荒れ確定だ!」 「この重大事態に副頭が不在だなんて…」 「とにかく親分に報告だ!」 彼らは奇声をあげて塔の階段を上がっていった。 「…帰っていいですか、私」 「言うな。使命さえなければ、俺も帰りたい」 後にはなんだか疲れているマリーとフェンの呟きが残っていたけど、一番帰りたいのがオレであることは間違いない。未練がましいかもしれないけど、格好だけでもなんとかしたかった。 ルチカの真実に対しての言い合いは少しあったけれど、今更引くわけにも行かない。 オレ達はルチカを先頭に更に塔を登った。 カンダタの部屋は階段を上がったすぐ前で、オレはその入り口である扉をじっと見た。やはり緊張する。最初の挨拶はどういうものがいいのだろうか。 「ここが親分のいる部屋よ」 「外からでも殺気を感じるんだが…」 ルチカの案内にフェンが嫌そうに呟く。 彼女はにこりと微笑んだ。 「頑張って☆」 「誰のせいだと思ってる…」 半眼で睨みつけてくるフェンを見ないようにして、オレは扉を開けた。 塔といえばナジミしか知らないオレはこの部屋もフェンのいた殺風景な部屋を想像していたのだけど、そういうわけでもなかった。 シャンパーニの塔の壁に模様はないし、いかにも居住区らしく椅子やら本棚やらが壁際にならんでいる。リビングのように使われている部屋のようだとオレは考えた。 部屋の中央にあるソファに大柄な男が座り、その周りを護衛するように十数人の男が立っている。 ソファに座る男は四十歳ぐらいに見える大柄な男だ。金茶の短い髪と無精髭。茶色の瞳がオレ達を睨んでいた。ワイルドな雰囲気でルイーダの店の冒険者によくいるタイプのようにも見えたけど、あの酒場の飲んだくれ達とは雰囲気が全く違う。頬に走る刀傷も彼がただの男どはないことを証明するように主張している。むき出しの腕は筋肉がよく付いていて丸太のようで、足元に転がる戦斧も大きく、腕力だけならフェンよりも上だろう。 彼がカンダタだと、すぐにわかった。 「ただいま」 ルチカの挨拶に一瞬相好を崩したカンダタだったけど、彼はすぐに顔をしかめた。 彼はオレとオレの後に入ってきたフェンを厳しい目で睨み付けてくる。 「で、どちらがふざけたことを言ってくれたガキだ?」 オレ達は一瞬顔を見合わせてから、 「オレです」 オレは一歩前に出た。 ふざけたことを言ったつもりはひとかけらもなかったけれど、カンダタに用があるのもルチカを旅に誘っているのもオレなのだから、ここはオレが前に出るところだ。 カンダタがオレを見る。人も殺せそうな殺気がオレに向けられ、一般人のオレとしては正直ものすごく怖かったけど、ルチカの前で格好悪いところは見せられない。オレはすくみ上がる心臓に気づかないふりをして、なるべく穏やかにカンダタを見つめ返す。 そのオレの横にルチカが並んだ。 「父さん。この前盗んできたロマリアの王冠、今持ってる?」 「これか?」 娘から問われたカンダタは、足元から金色に光る物を取り出した。宝石が幾つも付いている美しい金ぴかの王冠…城で説明された通りだ。 「どうするんだ、こんなもの」 「ん〜、彼に貢ぎたいな〜と思って」 「みつ…!」 楽しそうに言うルチカにカンダタ達が色めきだった。 「お嬢が貢ぎもの!?」 「いいじゃない。あたしが盗んできたものなんだし。盗んできたらあたしを一人前だって認めてくれるんでしょう?」 「はあっ?」 今まで黙っていたフェンが彼女に聞いた。 「金の冠を盗んだのはカンダタじゃなくてお前なのか?」 「そうよ。ちなみにロマリア城侵入は案外楽だったわ。ちょろいわね、あの城」 「……」 途方にくれた顔でフェンがオレを見た。 彼に了承の意味で一度頷いてから、オレはカンダタの方を向く。 「というわけでお義父さん。ルチカさんを僕に下さい!」 「違うだろうがああああああ!」 フェンが叫んだけど、何が違うのか全くわからない。 あ、もしや。 「だってこれから旅をしていくんだ。何年もここに帰ってこれないかもしれないんだからこれくらいは言わないと。あ、もしかして出会ってから今までの時間が短すぎると思ってる? いや。フェンならわかってくれるだろ? 時間は関係ないよ。一目会ったその日から、恋の花咲くこともある。あの夜、路地裏で出会ったルチカはまるで月の女神みたいに輝いて…」 「いや、それ関係ないから!」 「ぶっちゃけ出会って一時間でもうルチカの性格がいいってことはわかってるよ、オレ! 正直ルチカとだったら一生一緒にいたいんだ!」 「おいおいおいおいおいおい…」 「黙れ、小僧!」 理解してくれて無さそうなフェンに語っていたオレの、背中が一気に総毛だった。 直感を信じてオレは飛び退くと、つい先程までオレがいた床に真新しいひびが入っている。カンダタが打ち付けた巨大な斧が床をえぐったのだ。 「ふざけんな、このくそガキが…!」 「ふざけてません、お義父さん!」 オレはいつでも大真面目なのに、カンダタは真っ赤な顔をして怒鳴る。 「誰がお義父さんだぁぁっ! ええい。お前なんぞに可愛い娘は渡さん! 娘との旅を認めて欲しくば、俺を倒せっ!」 「そんな…!」 余りの悲劇的展開にオレは悲鳴をあげたけど、カンダタはものすごく怖い顔でオレを睨んでいてオレの真摯な説得を聞いてはくれなさそうだった。一般人であるオレは、更に強くなったカンダタの殺気に足がすくんだけど、明るい未来の為に、将来の義父から逃げるわけにはいかない。 恐怖を決意で塗り潰し、オレは考え直した。 「わかりました、お義父さん。ルチカさんと人生を過ごす人物の実力を確かめたいということですね!」 「違うわボケ!」 「じゃあ、行きます!」 剣を構え、オレは駆け出した。刃も潰してない本番用の剣を未来の父に向けるのは気が進まないけど、カンダタも練習用ではない斧だ。…まあ、お互いに気をつければなんとかなるだろう。 力で劣るのは、立ち会い前からわかっていた。 カンダタが向かってくるオレに斧を振り下ろしてくる。 まともに刃を合わせることは避け、オレは体をそらせてカンダタの斧を避けた。斧は大きくそれて再び床をえぐる。 「親分!」 「こいつ、よくもお嬢をっ!」 カンダタの攻撃を避けたら、子分達もいきりたってきた。 カンダタの斧を避けるのも必死なオレに子分の攻撃まで避ける余裕はない。 これはまずいと思っていたら、ルチカが更に一歩前に出た。彼女は可愛らしく微笑む。何人かの盗賊がその笑顔に足を止めた。 「待って〜! 王冠を手に入れたら、あたしと一緒に旅をする男はぁ、カイリだけじゃないのよ〜」 「そういえばっ!」 盗賊達が一斉に叫んだ。 ルチカのナイスフォローで、オレの方に駆け出そうとしていた子分達の足が止まる。 立ち止まった彼らの視線の先には、フェンがいた。 「俺は関係ないだろうがっ!」 「えー、だって。一緒に旅してくれるって、言ったじゃない〜」 ルチカはすごくいい笑顔だ。多分、すごく楽しいのだろう。 反対にフェンは額に少し汗がにじんでいる。 「言ったけど…それはだな…」 「ということは、やっぱりお嬢と旅をするんだな!」 「くそう、なんてうらやましい!」 「ちょっとまて、お前らそれは八つ当たり…」 「死ね!」 「違うっ!」 オレの前にはカンダタがいるから、こちらはもういいと思ったのだろう。子分達は全員でフェンに飛び掛かった。多勢に無勢にも程があるけど、フェンならば多分大丈夫だろうからオレは心配しない。フェンなら手加減も上手だろうし。 それよりも問題はオレのほうだ。 「じゃあ、改めて行きます」 「…おう」 オレはカンダタに剣を向けた。 巨大な斧を振り回しているにもかかわらず、カンダタの動きは決して鈍くない。若干、オレの方が素早いから、それを活かさなければば勝目はない。 オレは駆け出した。まっすぐ突っ込むと見せかけて、左へ飛ぶ。フェイントを入れつつ横なぎに剣をつきだしたが、これはあっさり受け止められた。そのまま力押しに持ち込まれようとした所を慌てて逃げる。実際に刃を合わせてみると笑えるくらい腕力に差があった。捕まったらオレの負けだ。 剣の腕も…正直、カンダタのほうが勝る。このままでは、オレはカンダタには勝てない。 逃げるオレを追ってカンダタが追撃する。受けずにかわす、が、それにも限界がある。避けきれない刃を反射的に剣で受け止めた時、オレは焦った。この体勢はまずい。 押し切られる前に逃げようとしたけど、今度は見逃しては貰えない。 低く出された斧がオレの足をえぐる。 「カイリ!」 ルチカが悲鳴をあげた。 足を見るとかなりの出血。痛くて倒れそうな気がしたけど、駆け寄ってきたルチカとマリーをオレは手で制した。 「早くその僧侶の姉ちゃんに癒して貰ってここから出て行け。このままじゃ出血多量で死ぬぜ?」 「まだ…いけます」 激痛を無視して、オレはにやりと笑った。 まだ、オレはカンダタを倒してない。 まだ、オレはルチカを安心させてない。 これは試練だ。カンダタにオレが娘を預けるに足る人物だと認められる為の。 そして、ルチカにオレが勇者だと認められる為の。 オレは早口で呪文を唱えた。 マリーを仲間にしてから、回復魔法は彼女にほとんど一任している。だから今日も決して多くないオレの魔力はまだ、少しも減ってない。 「ホイミ」 力ある言葉で回復の魔法が発動した。一番初級の回復魔法だけれど、これくらいの怪我ならなんとかなる。 「聖力持ちかよ。珍しいな。だが、いくら回復してもお前の剣の腕じゃ俺にはかなわないぜ」 それは事実だ。だけどオレは答えない。 思い付いたことがある。それを試してみたかった。 痛みの消えた足で駆け出す。目標はカンダタの斧。さすがにこれを人に向けるのはまずい。 今ならカンダタは油断している。少し卑怯な手だけど、何も出来ない男と思われるのだけは避けたい。 オレは剣をまっすぐ突き出す。 「自棄になったかっ!」 カンダタが真上から斧を振り下ろしてきた。 勢いよく降ってくる斧を背後に下がって避けるか、その場で受け止めるかしかない。 腕力では到底オレは彼にかなわない。受け止めても力でられたら確実に負ける。だから今までなら、このタイミングでオレは後ろに逃げていた。 でも今回は逃げない。 口の中でこっそり唱えていた呪文が終わる。 左手を剣から離して、オレは力ある言葉を言った。 「メラ」 炎がカンダタの目前に生まれた。油断してたのもあるし、ホイミの使える聖力使いであるはずのオレが、理力を使うメラを打ったのも驚いたはずだ。彼は慌ててメラを避けた。そこに大きな隙が生まれる。 「メラっ!」 オレは初級の魔法を連打する。閃光系の魔法も使えれば更に彼を驚かせることが出来たのかもしれないけど、残念ながらオレはまだ攻撃魔法はメラしか使えない。 だが、幸いにもオレの小さな炎にもカンダタは動揺してくれたらしい。 メラの炎は狙いたがわずカンダタの斧を包み込んだ。 慌てて斧を手から離すカンダタにオレは接近し、精一杯の力をこめてカンダタの斧をはじき飛ばす。 カンダタがつい斧から手を放した瞬間、剣を翻したオレは刃先を彼に近付けた。 [ next ] |