次は魔法の鍵を取りに行くことに決めたけど、魔法の鍵が安置されているピラミッドは、とても危険な場所だ。
 古代の王の墓であるピラミッドには、ミイラ化された王の遺体の他にも数々の副葬品が埋葬されている。その宝物を盗掘しようとする盗賊避けに、ピラミッドには危険な罠が沢山仕掛けられているのだ。

 いきなりピラミッドに行くのは危険ということで、オレ達はしばらくイシスで調べ物をすることにした。
 探すのは、目的のピラミッドの情報と、六個のオーブの情報、それから魔王バラモスのいるネクロゴンドに関する情報だ。

 謁見中に王宮の書庫の観覧許可をもらっておいたので、まずはそこを当たってみることにする。それからイシス周辺の状況を知る為に、王宮周辺に住む人々の話も聞いてみた方がいいだろう。
 書庫に行くのは古代語が読めるオレとマリー、聞き込みは対人能力が高いルチカとフェンという適材適所な振り分けで手分けして調べてみることにした。



 そしてイシス到着から三日間。オレ達はピラミッドについて調査した。
 王宮の書庫は分類分け方法が独特だけれど、わかりやすくまとめられていて慣れると目的の書籍を探しやすい。それは良かったけれど、それだけにオレ達は早々にため息をつくことになった。

「歴史書や呪術に関しての記録はしっかりしてるけど…、イシス以外の国に関する記録は少ないね」
 少しがっかりしながら、オレは慎重な手付きで巻き物をめくるマリーに話しかけた。
 イシス王宮の書庫の一画で棚から取り出した巻物を見ても、オレ達の欲しい情報は余り無かった。こんな愚痴は、案内と言う名目でオレ達を監視している司書が今は席を外しているから言えることだ。
「古い国ですのにね」
「地理的に他の国とは離れてるからなぁ…」
 この国が諸外国に目を向けたのは、それこそアリアハン王国全盛期くらいだ。アッサラームはイシス領だけど、あそこはなんか独立都市のようになっているし。

「話には聞いていましたけど、神話に関する記録も特殊ですね」
「太陽と月の神の神話か。確かにこの神話はイシス特有のものだね」

 太陽と月の神を中心とするイシスの神話は、他では見ないものだ。古代イシスの人々はこの太陽と月の神に祈りを捧げていたらしい。今でも新年の祭りなどでイシスの人々はこの神々にも祈りは捧げるけれど、同時にオレ達と同じように主神にも祈りを捧げるという不思議なことになっている。

 神話だけでなくアリアハンとは全く違う文化を歩んできたイシスは、イシス特有の古代魔法を生み出したりもしたけど、余りにも効率の悪いそれは今ではほとんど記録にも残っていない。
 文化が違うからこそ有効な手があるかもしれないというオレの希望はかなえられなかったようだ。
 書庫にはオーブやラーミアについての記述は全くなかった。




 結局余り情報が見つからなかったけど、これ以上調べても成果は期待できなさそうだと判断したオレ達はピラミッドに入ってみることにした。
 イシス城から砂漠を歩いて三日。今度はオレ達だけで砂漠を歩き、なんとか無事にピラミッドについた。イシス女王から借りた鍵で入口を開くと砂漠とは違う空気が流れ出した。外の暑さに比べると、大分涼しい。

 少し入り口あたりで休憩してから、オレ達はピラミッドの奥へと歩き出した。ピラミッドの中は凶悪な罠と魔物が沢山存在する。腕利き盗賊であるルチカが慎重に歩を進め、オレ達は彼女の後ろを着いて歩く。
 しばらくいったところに落とし穴があった。無論、先頭で罠を警戒しながら進むルチカに発見されたので問題なし。罠に詳しい彼女がいてくれて良かったと思う。周囲を警戒しながらもルチカを窺い見ると、真剣な顔で床やら壁やらを調べている。オレはルチカの真剣な表情が好きだ。罠を調べるルチカを見て、やっぱりオレは彼女のことが好きなんだな、と再確認する。

 時々休憩を入れながら、オレ達は奥に進んだ。途中、何個か宝箱を見つけたけど無視した。魔法の鍵がこんなに簡単に手に入るとは思えなかったし、関係ない副葬品に手を出すのも問題ありそうな気がしたからだ。あまりにもあからさまな場所に置いてあるから、宝箱型の罠かもしれないとルチカが言ったこともある。

 先に話は聞いてたけどピラミッドを守る魔物も沢山現われた。一番多く出てきたのはミイラ男という名前の魔物だ。包帯を巻いた人間型のゴーレムだけど別に本物の人間が材料になってるわけじゃない。包帯の中身は魔法のかけられた砂だ。だが砂漠の砂がいくらでも手に入るせいか、このミイラ男という魔物がピラミッドではものすごくたくさん出てきた。
 ただ、幸いなことにこの魔物はイシス独特の死霊呪術が元になった呪術で出来ているから、不浄なるものを祓うニフラムがとても良く効いた。ニフラムが効かなければ、もう少し手こずっただろう。
 オレ達は順調にピラミッドの中を探索する。上に上がる階段を捜し、宝物庫のようなものを見つけたけど魔法の鍵はそこになかった。

「一階下かしら」
 ルチカが首をかしげる。
 そういえば一つ下の階の通路に、変なボタンが四つあった。とりあえず触れずにきたけど、あのボタンが魔法の鍵への道を開くかもしれない。

 下に降りて、一番東側にあるボタンの前に立ってみた。
 石壁に石製のボタンがついている。一見壁の飾りにも見えるけど、隙間の雰囲気で押すことが出来そうだとルチカが既に判断していた。
 この石製ボタンがピラミッドの東西に二つずつついている。このボタンを押せば、魔法の鍵が手に入るのだろうか…。

「押す順番は決ってるんだろうなあ…」
 四人でボタンを前に考えこむ。
 四つあるということは、押す順番なんかも決まってるということだ。もしかしたら偽の罠ボタンなんかもあるかもしれない。ここは慎重に考えないと。

「一応、あてはあるんだけどね」
 ボタンの周囲を調べながらルチカが言った。
「あるの?!」
「うん」
 聞けば壁を調べていたルチカは振り向いた。銀の短い髪をかき上げ、頷く。オレとしてはさすがルチカだと喝采したい気持ちで一杯なのに、あてを持ってるはずのルチカは嬉しくなさそうだ。何故か目が全く輝いていない。

「聞き込みしてたときにさぁ、子供が歌ってた歌詞にボタンがどうこういうのがあって」
「…あれか」
 彼女と一緒に聞き込みをしてたフェンが軽く眉をよせた。わけのわからないオレとマリーは二人を見る。
 子供が歌っていたということは童謡の類だろう。童謡に思わぬ秘密が隠されていることがあるという展開は冒険譚の定番だ。かなり有力なヒントだと思うのだけれど、ルチカ達はそうは思わないらしい。
 何故か口にするのをルチカもフェンもためらっているように見える。

「どういう歌なんだ?」
「えー? 歌うのー?」
「だって、ヒントなんだろ?」
 彼女達が躊躇する理由はわからないけど、とにかく聞いてみないことにはわからない。オレとマリーがルチカを見つめると、一つため息ついてからルチカはオレ達に向き直った。

「オッケー。でも多分後悔するわよ」
「するかな?」
「…じゃあ、歌うわね」

 咳払いしてから、ルチカはイシスの童謡を歌いだした。童謡らしい単調なメロディの歌だ。

「まんまるボタンはふしぎなボタン。まんまるボタンでとびらがひらく。東の西から西の東へ。西の西から東の東」

 抑揚なくルチカがシンプルな歌を歌った。
 彼女が歌い終わっても、オレ達はしばし沈黙する。
 口火をきったのはオレだった。オレはしみじみと呟く。

「ルチカって、歌うまいねー」
「感想それ?!」

 第一印象を素直に述べたオレは、ルチカ本人にツッコミを入れられた。フェンの目が泳いでいるのが気になる。
 ちらりとマリーの方を窺ったら、彼女の瞳は絶対零度だった。オレはそっとマリーから視線を外す。

「ルチカの歌唱力についてはピラミッド出てから考えとけカイリ。今は語るべきはそこじゃないだろ」
「ん…歌詞について?」
「当然でしょう。私達は謎を解く為に歌を聞いたのですから」
 びしりとマリーが言い切って、それから急に不安そうに彼女はフェンを見上げた。

「それにしても…、困ったヒントですね」
「まあな。そのまますぎんだろ、このシチュエーション」
 何故か酷く疲れた表情でフェンがぼやいた。多分童謡の歌詞についての感想だろう。ルチカが頷く。
「そうなのよ。不安でしょ〜?」
「確かに歌の内容が余りにもそのまま過ぎて、逆に不安になるね」
 オレも歌詞についての話題に混ざる。
 全員で不安に襲われていると、いつものように無表情気味なマリーがルチカをじっと見上げた。
「この歌はイシスでは有名な同様なのですか?」
「そうみたい」
 ルチカが肩をすくめた。

「聞き込み初日の昼頃にに子供達が大声で歌ってたのを聞いたのが最初で、翌日も翌々日も子供達が歌ってるのを聞いたからから、イシスではかなり有名な歌なんじゃないかしら」
「それだけ有名な歌なら、既にこのピラミッドで誰かが試してそうな気がすんだけどな」
 フェンが頬を書く。
 ここに来るまで、通路には幾つか開いた宝箱があった。つまり、イシスで最も有名なこのピラミッドは何度も盗掘の危険に晒されているということだ。ルチカの歌った歌がこのピラミッド謎解きのことを示すなら、とっくに誰かが歌のヒントを解いて、魔法の鍵を手に入れてるのではないだろうか。
 歌の内容はあまりにも直接的で、ひねりもなにもきいてない。おまけに有名なようだ。誰もがこのわかり易過ぎるヒントを見逃しているとは思えない。

「まぁ、でも一応試してみようか」
「一応ね」

 それでもヒントといえばヒントだし、一応試してみる価値は無くは無いと思ったので、オレ達は歌の通りにピラミッドのボタンを押してみた。
 四つのボタンを順番どおりに押すと、ボタンの間にあった壁が音を立てて開き、新しい通路が現れた。
 通路を奥に進むと仰々しい宝箱に魔法の鍵が入っていた。

「いいのかな。これ」
「本物ですよね?」
「多分…」
 余りにも簡単に手に入った魔法の鍵に困惑しながら、オレ達は元来た道を引き返した。
 リレミトがあればいいのだろうけれど、オレはまだ覚えていない。早く覚えないとなぁ…と思いつつ、階段を下りていく。幸い、一階に着くまで魔物はほとんど現れなかった。

 しかしそれが気の緩みをもたらせたのだろうか。あるいは、余りにも簡単に魔法の鍵が見つかったから変に気が抜けたのかもしれない。もうすぐ出口というところでオレ達は魔物に不意打ちを食らってしまった。
 襲われたのは丁度劣化した石畳が敷き詰められている場所で足下が悪く、落とし穴も近い嫌な場所だ。
 嫌なことは続くもので、マリーがマミーに吹き飛ばされた場所は落とし穴の上だった。
「危ない!」
 一番近くにいたルチカが手を差し出したけど、ルチカの細い腕で鎧を着た人間の体重が支えられるわけがない。
「ルチカ!」
 叫んで踏み出したオレは足下に嫌な感触を覚えた。
 いつのまにかオレはルチカに絶対踏むなと言われたタイルを踏んでいる。

 今までとは比べ物にならないほどの地響きが起きた。
 オレの足下はもちろん、フェンの足下まで崩れ出す。
 叫ぶ間もなく、オレ達も落とし穴に吸い込まれることになったのだった。

 落とし穴の下には土砂のようなものもあったけど、恐れていたような杭などのものもなく、それほど高いところから落ちたわけではなかったから
 怪我もなかった。
 奇跡的に壊れも消えもしなかったランタンをフェンがかざすと、周囲には闇が広がっている。地下室なんだろうけど相当な広さがありそうだ。

「しまったわねぇ…」
「ごめんなさい…」
 呟いたルチカに申し訳なさそうにマリーが謝る。それにルチカが首を振った。

「マリーは悪くないわ。罠や不意打ちは、どっちかというと盗賊であるあたしの失敗」
「まあ、反省会はあとにしようぜ」
 ランタンを持ったフェンが苦笑いした。彼を落とした張本人であるオレの頭を慰めるように二度叩く。
「とりあえず外に出る道を探さないとな」
 見上げると、どういう仕掛けなのか落とし穴は既に閉じていた。天井もわりと高いし、ここからよじ登るのは無理だろう。

「地下室についての記述ならいくつか見たよ」
 このピラミッドではないけれど、このピラミッドの前後に作られたピラミッドの資料なら少し見つけていた。出来た時代から考えて、それほど違ってはいないと思う。多分。
「上と繋がってる階段はあると思う」
「そうね…」
 オレと同じように天井を見上げていたルチカが言った。
 消えてしまった魔法の明かりを再び作りあげようとして、ルチカは首をかしげた。

「どうしたんだ?」
「カイリ。レミーラ唱えてくれない?」
「いいけど?」
 疑問に思ったけど、オレは素直に明かりの魔法を唱えた。確かに魔力は放たれた。けれど魔法が発動しない。
「え?」
 何が起こったのかわからない。嫌な予感を抱えたまま、オレはレミーラとは違う呪文を唱えた。
 一番最初に覚えた攻撃魔法で、この魔法はほとんど失敗したことがない。

「メラ!」
 魔力は確かに編まれているのに、そよ風すらも立たない。

「もしかして…」
 事態に気付いたマリーが、呪文を唱え始めた。いつもより丁寧に呪文を唱えてマリーは、いつの間にかついていた彼女自身の傷に手をかざす。
「ホイミ」
 やはり発動しない。
 どういうことなのかは、全員わかってしまった。
 治らないマリーの傷を見つめてオレ達は黙り込む。

「イシスの古代魔法にマホトーンの強化版があるんだ…」
 ある一定範囲内において魔力が集積するのを封じるという魔法だ。馬鹿らしい程の魔力と犠牲を捧げて、ようやく出来る古代イシスの禁呪。

「確か場所にかかる魔法だから、魔力の範囲の外に出れば、また魔法は使えるようになると思う」
 書籍にはそうあった。
「範囲は…普通に考えて、地下全体でしょうねぇ」
 オレもそう思うけど、言葉にすると衝撃的だ。オレ達は全員、もう一度黙り込んだ。

「出口を探すわ」
 青い顔でルチカが踏み出す。魔法の明かりがないから予備の松明に火をつけてオレ達は歩きだした。












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