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話を聞き終えたオレ達は形ばかりの礼をして、ほぼ無言で部屋に戻った。 もちろん誰もが混乱している。 多分、一番心の整理が出来ていないのがオレだ。 オレはふらふらした足取りで、借りている自室に帰った。もしかしたらオレは不機嫌そうにしていたかもしれない。ルチカもマリーも心配げな様子でオレを見たけど、何も言わなかったし、オレについて部屋にもこない。 オレより先に部屋に入ったフェンが、ベッドの一つに転がる。彼とオレは同室で、隣がルチカとマリーが寝泊まりする部屋だ。 落ち着かないオレは部屋に入りはしたけれど、ドアの前で立ち尽くす。 フェンは仰向けに寝転び、天井を見上げている。そのフェンにオレは声をかけた。 「なんかさ、みんな勝手だよね」 時刻を知らせる鐘が遠くで鳴っている。 そろそろ神殿内に人が溢れかえる時間だ。 一般開放されていないこの宿泊施設でも、神殿内のざわめきが聞こえてくる。昨日までは気にならなかったその物音が今は妙に耳障りだと思う。 「オレ達が旅してきたのは、神様の為じゃない」 確かに、オレは望んで旅立ったわけではないけれど。 信仰心だってそれなりにあったつもりだった。だけど、リチャード神殿長が語ったことが事実なら神様なんてもう尊べない。 もしかしたら、オレ達が出会ったことも、フェンが記憶喪失であることも、親父が死んだことも神のせいかもしれない。オレ達は神の思うままに旅をしているのかもしれない。 まるで、操り人形みたいに。 それが事実なら、オレは神を許せない。 「ねぇ、フェン!」 「…聞こえてる」 苛立ったオレの声に、フェンは静かに答えた。 彼は天井を見上げたまま、オレの方には視線も寄越さない。 「あのさ、どう思う?」 「どうって?」 「さっきの話。神の依頼とか運命の話とか」 オレはフェンに聞いてみる。 聞きながら急にオレは不安になってきた。 神殿長の話が根耳に水だったオレと違って、フェンには何か心当たりがあるようだった。フェンは神殿長の言葉を肯定するのかもしれない。オレと出会ったことも、一緒に旅をしていることも運命だと言うのかもしれない。 それは嫌だ。 オレは思う。フェンはオレのことが気に入ったから一緒に旅をしてくれているのだと思っていた。いや、それは今でも思っている。でも本心では、フェンにとってはそうではなかったら? 神の依頼だから彼はオレと旅をしているのだったら、どうしよう。 「…あ」 そしてオレは唐突に最悪のことを思い出す。 フェンと初めてナジミの塔で会った時、彼は不思議なことを言ってなかっただろうか。 あの時オレは毒で気分が悪くてすぐに気絶してしまったり、その後もバタバタして今まで聞きそびれていたけれど、フェンは何か言っていた。 確か…。 (…考えるな) 違和感を感じて、オレは眉をひそめた。 ふと、胸が苦しくなる。背中から悪寒のようなゾクゾクするようなものが這い上がってきた。嫌な予感のような、恐ろしいことを思い出したような、そんな気分がする。 思い出すときっと酷いことになる。誰か大事な人が…フェンがいなくなる気がする。 オレは首を振る。 そうだ。それに、そんなことを考えても仕方ない。 フェンは感じの悪い自称エリート達に苦労していたオレを心配してついてきてくれたんだ。あの時から今に続くフェンの好意を疑うのは彼に失礼だろう。 オレが色々考えたりしている間、フェンはずっと無言だった。 「…カイリ」 やがてフェンはぽつりとオレの名を呼ぶ。彼はゆっくりと起き上って、ようやくオレの方を見た。 「一度ムオルに行ってみていいか?」 オレは顔をしかめた。あの神殿長の言葉通りに動くのは正直面白くない。 それに、オレの質問にも答えてくれてない。 オレが黙っていると、フェンは困ったように微笑んだ。いつもの優しいフェンを困らせるのは嫌だけれど、神殿長の話に反発を覚えているオレは頷くのに躊躇してしまう。 「俺は昔住んでいた場所だ。俺一人ならキメラの翼を使えば、すぐに行って帰ってこれる。一日か二日、時間をくれればいい」 「だけど、ポカパマズさん…だろ?」 オレはその珍妙な名前を口に出した。 記憶喪失だったという勇者オルテガ。今はいないオレの父親。 フェンと親父という二人の記憶喪失勇者が倒れていたのは同じ場所。そして拾ったのも同じ人物。フェンと親父を拾ったという商人ポポタが、オレ達がダーマ神殿に来たタイミングで、偶然ここに居合わせたのは果たして本当に「偶然」なのだろうか。 疑えば疑うほど疑わしくなってくるオレの旅路の「偶然」。 ムオルには、その怪しい「偶然」の片鱗が残っているかもしれない。 「オレも行っていい?」 天地属性のこと、親父のこと、そしてフェンのこと。ムオル村に行けば何かわかるかもしれない。 オーブやバラモスについての調査は僧侶達に頼んでもいいだろう。 「もちろんだ。…ありがとな、カイリ」 「いいよ。そんなの」 ため息ついて、オレは身を翻す。 行こうとは思うけれど、どうしてもオレは落ち着かない気分だ。ムオルには行こうと思う、けれどすぐに行こうという気にはなれない。 「…ちょっと出かけてくる」 「ああ。気をつけろよ」 一つ溜め息ついて、オレは部屋を出た。当てもなく神殿の廊下を歩く。 どうしようもないような気分だ。 ムオル村に行けば、このモヤモヤした気持ちに少しは整理が付くのだろうか。 それからしばらく、オレは一人であちこちを歩き回った。 よく考えたら一人で歩き回るのは久しぶりだ。 いつもルチカ達がいて、買い物するのも食事をするのも彼女達と一緒になっている。旅に出る前はどうしていたのか思い出せないくらい、仲間達と歩調を合わせるのが普通になっている。 だけど…。 フェンだけじゃない。 もしかしたら、ルチカやマリーとの出会いも、神の仕組んだ運命なのかもしれないんだ。 「ああ、でも例え運命だとしても」 人でごったがえす神殿内の廊下で、オレは独り呟いた。 例え誰かの差し金だったとしても出会った仲間達と別れる気は、一欠けらさえ思い浮かばない。 フェンも、ルチカも、マリーも、今ではオレの世界で最も大切な人だ。 頼まれたって別れたくないし、大好きな彼らと一緒に旅をしたい。 特にルチカは過去に悲しいことがあったようだから、絶対に幸せにしたいし守りたいと思う。今は時々見せる寂しそうな様子が無くなるように、彼女の願いをかなえたいと思う。…カンダタからもレイヴンからも頼まれていることだし。 「進むしかないのかな」 愛する仲間達を守る為に、彼女達と離れたくない。 ならば魔王討伐の旅を続けるしかない。 いつのまにかオレは、フェンのいる自室の部屋の前に戻ってきていた。 ふっきれない思いはある。 だけど、大好きな仲間達と一緒にいる為には、ここに帰ってくるしかないんだ。 部屋の扉を開きながら、オレは漠然とそう考えた。 [ next ] |